光源で配光を扱う – 全光束を明るさに指定

  • 配光での「明るさ」は全光束を指定


今回は前回の続きとしてShade3Dで配光を指定する場合の「明るさ」に何を指定すればよいのか、ということを解説していきます。
以下は配光を使って点光源とまったく同じレンダリングを行ったものです。

今回は「配光使用時は明るさに全光束を入れる」ということを計算で証明する内容になるため、
情報として不要な場合は飛ばしていただいて問題ないかと思います。
理詰めで進めるため、より理解を深める場合の参考になるかもしれません。
最後に、まとめを記載するようにしました。

照明器具のカタログにおける配光のデータ

照明器具のカタログでは、IESでの配光データとして以下を使用します。

  • ランプ光束 (単位 : lm)
  • 光度の情報 (単位 : cd)

ここでの光度値は「ランプ光束あたりの光度」になります。
配光曲線では一般的に「1000lmあたりの光度」となっている場合が多いようです。
IESファイルにはこれ以外に、照明器具のメーカー名、光度の倍率、開口部の幅/長さ/高さ、などの情報を持つことができます。
IESファイル上は、指定のランプ光束当たりの光度が角度ごとに複数格納されています。

別途、照明器具のカタログでは以下のような情報を持ちます。
これ以外もありますが、主要なものとして2つを列挙しました。

  • ランプ光束(全光束) (単位 : lm)
  • 器具効率

「ランプ光束(全光束)」は照明器具全体での光束になります。
これは「器具効率」に左右されます。「器具光束 = ランプ光束 * 器具効率」の計算になります。
例えば、2000(lm)のランプの器具効率が70%とした場合、2000 * 0.7 = 1400(lm)が器具光束となります。
なお、ここでの全光束は「ルーメン値をShade3Dのシーンで扱う」の「照明器具のルーメン値」で列挙した以下の「ルーメン値」に相当します。

種類 ルーメン値(単位 : lm)
蝋燭 12.57
白熱電球(60W相当) E26口金 810
白熱電球(100W相当) E26口金 1520
直管形蛍光灯 FLR40 38W 3230
丸形蛍光灯 FCL40 38W 3230

この光束情報とIESファイルの配光データを、Shade3Dの配光に当てはめていきます。

Shade3Dの配光で指定できる項目

Shade3Dの配光は形状情報ウィンドウより、IES属性のIESファイルの指定、「明るさ」の2か所で調整します。
別途光源色がありますが、ここでは白色(RGB(1.0, 1.0, 1.0))で説明します。

基準となる情報

今の段階で明確に値が分かっているものとして、無限遠光源で明るさを1.0にしたときの直下照度100k(lx)があります。
これを1m(1000mm)の高さからの点光源またはスポットライトとして置き換えると、1256637.06(lm)の光束になります。

この計算は「ルーメン値をShade3Dのシーンで扱う」の「Shade3Dでルーメンを扱う際の前知識」もご参照くださいませ。
点光源かスポットライトをシーンに追加し、形状情報ウィンドウの「単位」を「減衰基準距離」にして「明るさ」に1000(mm)を指定、
「単位」を「ルーメン」に切り替えると同じ光束値を得ることができます。

表面材質の白色の面に照射されるとき、直下はRGB(1.0, 1.0, 1.0)の輝度となります。

また、光度I(単位:cd) の光が距離R(単位:m)だけ離れた位置での直下照度E(単位:lx)のとき、「E = I / (R^2)」の計算式になります。
この式と「I = (読み取り光度 * ランプ光束) / 1000」の計算より、
読み取り光度(これはIESファイルでの光度値)は79.5774(cd)と計算できます。
この計算については「光源で配光を扱う」の「Shade3Dでの配光とルーメン値の関係」をご参照くださいませ。

これより、無限遠光源を1000mmの高さから入射させる点光源にしたと仮定すると
「1000lmあたりの光度を79.5774(cd)」としたときのIESファイルを指定し、
Shade3Dの配光の指定で「明るさ」を1256637.06(lm)とすると計算は合うことになります。
点光源、スポットライトを配光で表現する場合も同じ「1000lmあたりの光度を79.5774(cd)」を指定したIESファイルを使用できます。

配光データと「明るさ」より照度を計算

試しにこのときの配光データから得られる光度と「明るさ」1256637.06(lm)より、1000mmの位置の直下照度を計算します。
配光曲線は以下のようになります。

すべての方向で同じ光度値「1000lmあたり79.5774(cd)」になります。
ここでの「明るさ」1256637.06(lm)は照明器具で言うと「全光束」に値します。
これより、直下の光度は「I = (読み取り光度 * ランプ光束) / 1000」の式より、「I = 79.5774 * 1256637.06 / 1000 ≒ 100000 (cd)」となります。
照度計算の式「E = I / (R^2)」より、1(m)の直下の照度は「E = 100000 / (1^2) = 100000 (lx)」となります。

「明るさ」のルーメン値に全光束を指定できるか検証

IESの配光データが与えられているとき、配光光源の形状情報ウィンドウで単位がルーメンのときの「明るさ」に全光束を入れることができるか検証していきます。
IESファイルの配光曲線は以下のようなものを用意しました。

1000lmあたりの光度は0度での最大196(cd)としています。
全光束は1500(lm)としました。
この数値は照度計算を行って数値比較のために使用するだけのため、どんな値でもかまいません。

配光光源を地面から1000mmの高さに配置し、配光にこのIESファイルを読み込みます。
照度をレンダリングで判断するため、配光光源の真下に小さな円を配置します。
この表面材質で「Shade3Dマテリアル」の拡散反射色を白/光沢なしを指定します。

レンダリングしたときに円の中心のピクセル値を取得し、それを照度の目安とします。
実際はピクセルの輝度を取得して判断するのですが、この表面材質と直下のピクセル値の取得により照度相当としています。

配光の形状情報ウィンドウを表示し単位を「ルーメン」、「明るさ」を全光束の1500(lm)とします。
ただし、そのままでは最終的な照度値が小さすぎて0.0に丸め込まれてしまうため、明るさを1000倍し「1500 * 1000 = 1500000」(lm)としました。

まず、このときの直下照度を計算します。
「I = (読み取り光度 * ランプ光束) / 1000」の式より、光度は「I = 196 * 1500000 / 1000 = 294000 (cd)」となります。
照度計算の式「E = I / (R^2)」より、1(m)の直下の照度は「E = 294000 / (1^2) = 294000 (lx)」となります。
全光束を1000倍しているため、実際の照度値は294(lx)となります。

レンダリングを行い、exrファイルで保存します。
円の中心のピクセル値をペイントツールで取得すると、2.95となりました。
これは294000(lx)のときの照度値に相当するため1/1000倍します。0.00295が294(lx)に相当します。

無限遠光源の直下照度は100000(lx)で1.0であるため、これと比較すると1.0を(294/100000)倍すると0.00294となります。
前述の0.00295と似た値になりました。
わずかの差は、小数点値が小さい値のため誤差によるものになります。

では、同じ配光(1000lmあたりの光度は0度での最大196(cd))で今度は全光束を810(lm)とします。
配光の形状情報ウィンドウで単位を「ルーメン」、「明るさ」を「810 * 1000 = 810000」(lm)とします。
この時の直下照度を計算すると、光度は「I = 196 * 810000 / 1000 = 158760 (cd)」となります。
照度計算の式「E = I / (R^2)」より、1(m)の直下の照度は「E = 158760 / (1^2) = 158760 (lx)」となります。
全光束を1000倍しているため、実際の照度値は158.76(lx)となります。

レンダリングを行い、exrファイルで保存します。
円の中心のピクセル値をペイントツールで取得すると、1.56となりました。
これは158760(lx)のときの照度値に相当するため1/1000倍します。0.00156が158.76(lx)に相当します。

無限遠光源の直下照度は100000(lx)で1.0であるため、これと比較すると1.0を(158.76/100000)倍すると0.00158となります。
前述の0.00156と似た値になりました。

これらの計算結果より、配光の形状情報ウィンドウで単位を「ルーメン」としたとき
「明るさ」には全光束を入れると整合性が取れる、と判断できそうです。

配光を使用しない照度計算と配光を使用した照度計算の比較

「明るさ」に全光束を入れるという確証をもう少し進めるため、
配光を使用しない場合と配光を使用した場合で同一の照度になることを確認していきます。

「基準となる情報」の説明ではスポットライト/点光源を配光で置き換え、光度として「79.5774(cd)」を使用していました。
ここで光源の全光束(配光光源のルーメンでの「明るさ」に割り当て)を固定にし、
配光を使用しない点光源の場合と、配光を使用した光源で同じ照度値になるか比較します。
全光束を810(lm)とします。

まずは、配光を使用しない場合です。
地面から1000mmの高さの位置に点光源を配置し、地面の中心に小さな円を配置します。
円の表面材質では「Shade3Dマテリアル」の拡散反射色を白、光沢なしにしています。

光源の単位を「ルーメン」にし、「明るさ」に810 * 1000(lm)を指定します。
この時の1000mmの高さからの直下照度を計算すると、
「I = Φ / ω」の式より光度値は「I = 810000 / 4π = 64457.76 (cd)」。
「E = I / (R^2)」の式より照度値は「E=I=64457.76(lx)」となります。
全光束を1000倍しているため、実際の照度は64.457(lx)になります。
レンダリングしてexr出力、ピクセル値を取得すると0.63となりました。

次は配光を使用した場合です。
「1000lmあたりの光度は79.5774(cd)」のIESファイルを配光に割り当てます。

同じように光源の単位を「ルーメン」にし、「明るさ」に810 * 1000(lm)を指定します。
この時の1000mmの高さからの直下照度を計算すると、
光度は「I = 79.5774 * 810000 / 1000 = 64457.694 (cd)」となります。
照度計算の式「E = I / (R^2)」より「E=I=64457.694(lx)」となります。
全光束を1000倍しているため、実際の照度は64.457(lx)になります。
レンダリングしてexr出力、ピクセル値を取得すると0.63となりました。

配光を使用しない場合と使用した場合で、照度値の一致を確認できました。

今までのまとめ

光源について、今まで記載したことをまとめておきます。

  • 無限遠光源で「ルクス」を使用する場合は、明るさ1.0で100k(lx)に相当。
    すべての光源の明るさは無限遠光源の1.0が基準になる。
  • リニアワークフローで扱う(リニアワークフローを使わないと正しい結果になりません)
  • オブジェクト光源で「ルーメン」を使用する場合は、すべての光源をルーメンで統一する。
  • オブジェクト光源で「ルーメン」を使用した場合は、全体的に暗くなるためn倍する(そうしないと、黒で丸め込まれてしまいます)。
    すべての明るさは「無限遠光源の1.0で100k(lx)」が基準になります。
  • 光源ジョイントを使って「ルーメン」を指定したオブジェクト光源の明るさをn倍する場合は、倍率は平方根値(√n)を指定。
  • 配光を使用時は、「ルーメン」での「明るさ」に全光束を入れる。

今回はここまでです。
配光を使用した場合に「明るさ」に全光束を指定する、というのを照度計算やピクセル値を見て証明していく内容でした。
配光は、照明に関する知識を学習するのに適した題材になるかと思います。
照明設計では、配光は基礎知識に含まれる内容になるようです。
次回はこれまでの配光の説明で不足している知識を補っていく予定です。

カテゴリー: 照明器具を作る